第三話『不機嫌な友恵』

ぼすっ……
「ふがっ?」
顔に何か押しつけられている。
くっ、苦しい……。

「さっさと起きなさいよ!!」
……ぐむうううう…友恵?
く……このままでは……
「てい!!」
ガバッ!!!!

顔にかけられていた抵抗を身体の反動で押し返す。
「きゃっっ……。」
寝ぼけ眼で見た先には枕を持ったまましりもちをついている友恵の姿であった。
「いきなり起きないでよ!!」
「なんだよ。人を窒息死させようとしたくせに。」
「起きないからよ。」
「起きろとか起きるなとか分けわからん。」
朝からこうなると俺も友恵も歯止めが効かなくなるお互いに力尽きるまで言い合うだけだ。


「……ったく。朝から何やってんだか……。」
いつのまにかあがり込んで来た誠也がその様子を傍観していた。
誠也は俺達が止めて聞くような奴らではない事を長年の経験で知いる。
そしてすぐもとどうりになる事も。

しかし……
この日はちょっと違った。
「何よ!!健介が悪いんじゃない!!」
「んだと!!可愛くねー奴だな!!」
だいたいここで友恵の拳が飛んできて終りになるのだが……
「なによ。健介には関係ないじゃない。」
いつも以上に突っかかる友恵。

「??お前なぁ〜。あんまりうるさくすると高校で彼氏できね−ぞ……。」
しつこく突っかかる友恵に半ば呆れていた。
「おい……ちょっと言いすぎだぞ。」
いつもはなにも言ってこない誠也が間に入ってくる。
「あ??」
俯いている友恵を良く見ると……泣いているようだった。
「お、おい。友恵??」
「健介の……健介の……………ばか〜〜〜〜〜!!!!」
ヒュン!!ドガッ!!!!
友恵が抱えていた枕を思いっきり俺の顔面めがけて投げてきた。
「グハ……」
とても枕とは思えない衝撃だ。間違いなくお前の腕はメジャー級だよ……友恵。

そのまま友恵は部屋を出て行ってしまった。
遠くで玄関がしまる音がする。
「まったく……なんだってんだよ……。」
顔から枕をどけ負傷具合を確かめる……よし!!何ともない。
奴の剛速球を受けて無事とは俺も頑丈になったものだ。

「……今回はお前が悪いぞ。」

横にいた誠也が口を開いた。
心なしか誠也の口調は怒っているように感じる。
「なんで?」
「まあ、ちゃんとした理由は言えないが……。とにかくお前が悪い。あとで謝っておけよ。」
それだけ言って誠也は部屋も出て行ってしまった。
あいつ、なにしに来たんだろう?
「分けわかんね−な!!」
ひとり残された部屋で叫んでしまった。


一通り身支度を整えて台所を覗いた。
案の定、誰もいない。というかここには俺しか住んでいないから当たり前。
なんだけども……きっとどこかで「誰かいないか?」と探しているのかもしれない。
これも無断で家に上がる友恵や誠也、その他『諸々』のせいだ。
ふとテーブルに目をやると……。
「あ………」

そこには朝食がラップされていた。
きっと友恵がやってくれたのだろう。
この頃あいつ毎日のように家来て朝飯を作ってくれてたからな……。
「この家の事、任されてるんだから…」とか言って。
友恵が作ってくれた料理を見ていたらすまない気持ちになってきた。
どういう経路にしても言って良いことと悪いことがある。
きっと俺は友恵の傷つく事を言ったんだな……。
いつも一緒に居るからそういう事あんまり気にしなくなってくるな。
あとでちゃんと謝っておこう……。
何気なくカレンダーに目をやっていていた。
……ん??


友恵の用意してくれた朝飯をひとりで食べてから家を出る。
すでに(いつの間にか)昼過ぎだがどうも今日は家でごろごろしているって気分じゃない。
戸締りをしようと鍵をかけていると……
「セ〜ンパイッ!!」
ガバァァァ
「ほぐぅぅぅぅぅ」
腰辺りに強烈なタックルをかまされる。
ほんとに今日はいろんな物がぶつかってくる日だ。

そして予告なしにタックルをかます奴などアイツしかいない。
ソイツの頭を捕まえ、俺の正面に持って来る。

「泉〜〜〜〜キサマ〜〜〜〜……」
「あれ〜〜?先輩、少しカンが鈍りましたぁ?休み前の先輩ならこの程度の攻撃はモーションなしでもよけてたのに……反撃付きで」

頭を押さえ込まれているという不利な状況でさえ泉には俺が遊んでくれているとしか思ってないのだろう。

泉 朝子。
俺の後輩……というか友恵の後輩。
どういう繋がりでか、中学校から友恵にベッタリでほとんど飼い主と犬状態。
人懐っこい性格で直接繋がりがなかった俺も「飼い主(もちろん友恵の事)の親しい友達」というだけで何時の間にかなつかれてしまっていた。
なつかれてしまっているついでに飼い主(友恵)と仲良くしているとヤキモチとばかりに背後からタックルをかましてくる困った奴だ。その野生の攻撃に対応しなくてはならないので俺の反応速度もいや応無しに上がる。
三年になってからは気配だけで泉の攻撃を察知できていたのだが……本当に休みのせいで感覚なまったのかな……
まあ何はともあれ犬こと泉 朝子は人懐っこい、まあ可愛い後輩にあたるわけだ。

そんな俺と泉のじゃれ合い?否、ドつきあいを誠也の様に我関せずと見ているもうひとつの影。

「おい!!お前も見てないで泉を引き剥がすのを手伝ってくれよ。塚本。」
「ん!?なんだ、もう終わりか?」

いかにも面倒くさそうに俺達に近づいてきて泉の襟首を掴んで俺の腰から泉を引き剥がす塚本。
「真紀センパ〜イ……あたしの扱い、日に日に悪くなっているように感じるんですけど……」
「友人の前だけならまだしも、街中でまであんたの犬化現象を取り繕っていれば嫌でも扱いは劣化していく。あいにく私は友恵のように甘くはない。」
「う〜〜〜……」
不満げに塚本を見上げる泉。
その顔はどう見ても犬が飼い主に怒られている様にしか見えない。

塚本 真紀
俺の同級生で友恵の親友。
そのダルそうな、面倒くさそうな立ち振る舞いから几帳面を絵に描いたような友恵とは合いそうに無いのが何故か毎日のように一緒にいる。
知り合ってから結構経ってから知ったのだが、塚本はこう見えて他人のフォローとか結構上手で俺と友恵の喧嘩の仲裁を何度もしてくれている。
とても女の子とは思えない口調、そして友恵以上の毒舌なのに塚本を狙う男子は星の数ほど(言い過ぎかもしれないが・・・)いる。
まあ、塚本は黙っていれば憂いのある美女に見えなくも無い。
友恵が可愛い系で塚本が美しい系だというのが学校の男子の評価は・・・まあ、言い得ている様な気がする。
が、俺たちといるときの塚本は単なる親しい友人だ。
俺と誠也、友恵と塚本、その間に泉というのが学校内での通常スタイルだった。

「で、塚本と泉は何だってこんなところに・・・。泉はともかく、塚本ぉ〜俺たちは受験生なんだぜ。こんなところで油売ってて良いのかよ。」
日ごろの毒舌のお返しとばかりに先制攻撃をかける。が、

「ふっ・・・、その言葉そっくりそのままお前に返す。私はすでに推薦で進路は確定済みなのだ。よほどの問題でも起こさぬ限りな。まあ、村上はどんなに勉強しようとも問題だらけだろうからな。(ニヤリ)」
なんと、放った一発のミサイルが難なくかわされ、さらに数倍の量になってミサイルが自身に帰ってきてしまった。
此処で負けを認めては奴の捕虜になって虐げられるに違いない。なにか打開策を・・・打開策を!!

「村上先輩のこの間の模擬テストの結果で第一志望の白陵柊の判定は『D』でした。担任の先生に『もっと気張らんと逆立ちしても無理だぞ』と言われています。」
と泉のトドメの一撃!!
これによって俺の髪の毛一本ほどの勝ち目さえ失ってしまった。(もともとそんなものは無かったのだが)
てか、なんで泉が俺の成績を知っているんだよ。
恐るべし学校一の情報網。

「まあ、村上の成績などどうでも良いのだが・・・」
「どうでも良くない!!」
「友恵に何した?」
「え!?」

突然に友恵のことを持ち出されとは思わなかった。
何気に口調も先ほどのふざけた感じは無く、微かな怒りさえ塚本から感じる。

「今日が何の日か分かっているか?」
今日?そういえば何気なく目をやったカレンダーになにか感じたような気はするけど・・・
「村上先輩、今日は友恵先輩の誕ムグっ・・・・何するんですか真紀先輩!!」
「お前はだまっとれ。まったく・・・」
あっ!!
そうだよ。何で今日、朝から友恵の様子がおかしかったのか?
いつもならなんでも無い口喧嘩があんなことになってしまったのか?
その後の誠也の台詞。
そして今、目の前に塚本と泉がいて怒っているのか?
全て俺が「今日」が何の日か忘れていたからじゃないか!!

「すっかり忘れてた。ありがとう塚本、泉。」
「礼はいいからさっさとお前がするべきことをやって来い。」
「フグーー!!ムグーー!!」
塚本の口調はすでにいつものものに戻っていた。
2人との別れも適当に俺は走り出した。
まずはプレゼントだよな・・・


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