第五話『晴れぬ不安』

ピーポー……
遠くの方から稚拙な音が聞こえてきた。
それが救いの手なのにそうとは思えなかった。
救急車は家の前で止まり、隊員がタンカに友恵を乗せその口に呼吸器をつけたまま救急車に乗せた。

「……一緒に来ていただけますか?」

隊員の一人が俺に尋ねてくる。
俺はなにも言わず頷いて、友恵の横たわるタンカに付き添った。


救急車の中では隊員の人が慌しく動き、無線で友恵の状態を報告している。
そんな中俺はただ力の入っていない友恵の手を握っている事しか出来なかった。
友恵の弱々しく起伏する胸にプレゼントの小さな懐中時計。
まるでそれが友恵の命のようだった。


救急治療室のランプを見ながら俺は長椅子にうな垂れていた。
病院の人が呼んだのだろう……友恵のおばさんが隣に座って祈るように手を合わせていた。
俺の頭の中はグラグラしていた。
自分が何を考えているかさえ分からなくなっている。
なんで俺がここにいて、友恵が治療室なんかにいるんだ?
繰返し続く問いに答えは出なかった。

どれ位時間が経っただろう。
治療中のランプが消える。
おばさんもそれに気付き、治療室のドアの前に立った。
ドアが開き、ひとりの女医が出てきた。

「先生!!友恵は?友恵はどうなったのですか?」
おばさんが女医にすがりつくかのように聞く。
今まで溜まっていた不安が一気に噴出したかのようだった。
「お母様。落ち着いてください。処置が早かったことも有り大丈夫です。ただニ、三、気になる点が有るので、検査入院をしていただきますけど…」
女医の後ろから移動式のベットで友恵が出てきた。
今では落ち着いて静かに寝息を立てている。
そんな友恵の顔を見たら体中の力が抜けていくのが分かった。

良かった………なんともなくて……
気になる点とかなんとか言っていたけど友恵に限って何かあるわけない。
今回はたまたまなんだよ。
検査が終わったらまたいつもどおりの日常がもどってくるんだ。


そうとしか思えなかった。
この時の俺は……
この日、この時から俺と友恵とそれを取り巻く世界にタイムリミットが設けられていたなんて誰も知る由もなかった。


 翌日

俺は友恵の病室にいた。
個室というなんとも贅沢な空間だ。
ベットでは昨日から眠りっぱなしの友恵がいる。
良く考えれば俺って友恵の寝顔って見た事なかったな。
俺の寝顔はいつも見られていたが……。
少し顔を近づけて良く見てみる。

(かわいい……かも………)

友恵の顔は女の子と女性の中間な感じだった。
きっとこれから大人になっていくにつれて綺麗になっていくのだろうと素直に思う。
そして俺はいつのまにか友恵のみずみずしい唇に目がいって……

「……っん」

「!!!!」

ゆっくりと友恵のまぶたが開かれていく。
突然の事態に固まってしまう俺。
(落ち着け!落ち着くんだ俺!!!難しい事じゃない。普通に顔を離して挨拶すれば良いんだ!!!!)
しかし時すでに遅し、しっかりと開かれた友恵の目は俺を間近に捕らえていた。
…………
……………………
止まった時間。
そして俺の
「よう……元気?」
意味不明で情けない言葉。

「きゃーーー!!?」
呆れるくらいありきたりな友恵の反応。
俺はこの時数秒先の未来を忠実に予言する事が出来るであろう。

「健介のぉぉぉっぉ……」
ほら、目の前には自分でもよく分かっていない怒りに頭を支配された友恵サン。
こうなった彼女に何を言っても無駄だ。
さて俺は体の力を抜いて待つとしよう。
待っていてくれ。お花畑の綺麗なオネ−サン。今そっちに……
「ばかーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
「ほぶううううううううううぅぅぅぅ………」
不安定な姿勢(ベットに寝た状態)でこれほどの拳を放つとは……ヤルネ……。
ガクッッ…


カチャ……
扉が開かれ、先生が入ってくる。
落ち着き?を取り戻した友恵がそれに気付いた。

「あっ…」
俺もそれに気付いて先生の方を向いた。
昨日、友恵を見てくれた女医だった。
「どお、比奈本さん?」
昨日は気付かなかったがかなりの美人だ。大人のフェロモンムンムンって感じだ。
何故かくわえ煙草で、なんか服装もよれっている……

「事情はお母様から聞いた?」
「はい。どうもありがとうございました。」
「いいのよ。それが私たちの仕事なんだから……」

友恵のおばさんは俺がアッチに逝っている間にやって来て、友恵に昨日までのことを話し、着替えを持ってくるといって一度家に戻った。
「それで、あなたにはニ、三日検査という事で入院してもらいます。」
「はい。」
「私はその間の担当医師の香月です。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
なんとなく緊張した感じの友恵。
まあ、入院なんてして感じの良いもんじゃないだろうし、特に活動的な友恵にとっては……。
「まあ、新学期には間に合うみたいだし良かったじゃないか。」
「そうだね。」
……ったく、さっきの俺をふっとばしたエネルギーはどうした?

「この入院でお前の強暴さが治れば良いんだがなぁ。」
「なんですって〜!?けんすけ〜〜」
やっといつもの調子が戻ってきたか。
よかった。…のか?
「ハイハイ……漫才はそのくらいにしてね。」
香月先生が俺達の間に割ってはいる。
「君、名前は?」
「村上です。村上健介。」
「そう。じゃあ村上君、悪いけど出ていってもらえる?」
「えっ!?なんでですか?」
香月先生は一度ため息をついてから
「あのね。私はこれから比奈本さんの検診をするの。ってことは服を脱がすの分かった?それとも村上君は比奈本さんの裸、見たい?」

うぅ……
なんかこの人少し面白がってるぞ。
目が楽しそうだ。
ほんとに医者か?
なんか友恵も顔を赤くしてるし、そんなんじゃもっとややこしくなるじゃないか!!
「…え…あ…はい、分かりました。じゃあ俺帰ります。」
その場の雰囲気に耐えられず、そそくさと出ていこうとする。
「健介。」
「ん!?」
不意に友恵に呼びとめられた。

「えっと…ありがとね。」

「何が?」
なんかもじもじしていると友恵。
ホットに今日はいつも見る事の出来ない友恵の表情を見る事が出来るな。
「……私が起きるまで側にいてくれたこと……」
ぼっ!!!!
一瞬に自分の顔が赤くなった。
は、恥ずかしすぎる!!!
それと友恵の上目づかいで俺を見る感じも俺の心臓をバクバクいわせる。
反則だぞコノヤローー!!
「なっ、何言ってんだよ!まったく熱でもあるんじゃないのか?先生にちゃんと見て貰えよな。じゃあな!!」
「うん……じゃあね」



バタン!!
閉められたドアの向こうから健介の気配が消える。
きっとこのまま家に帰って寝るのだろう。
昨日からずっと私に付いて居てくれたのだ、きっと寝ていない。
あのしっかりと憑いた目の下のクマが良い証拠だ。

なんだかんだいって私はいざという時に健介に助けられている……。

「……村上君のこと……好きなんでしょ?」
香月先生が後からきた看護婦の人と準備をしながら訪ねてくる。
「えっ!?あ、あの……その…………」
「別に答えなくてもいいわよ。一個人としての興味でしかないから。」
「あ……はい……すいません………」
「謝らなくてもよろしい。……じゃあ体見せてね。」

「はい。」

「まあ、彼は良いと思うわよ。」

「えっ!?」
「昨日から彼、心配そうにあなたの側に付いて起きてたから。お母様が『帰りなさい』と言ってもあなたが目を覚ます時に側に居たいって……」
ヤッパリ……
「あなたのことを本当に大切に思ってるのね。良かったわね。」
「………はい!!」

なんだか気さくな感じな先生だな……。
少し変?かもしれないけど気兼ねなく話しを出来そうな姉のようなそんな雰囲気。
私もそんな風に思われる大人になりたいな……




[PR]湘南美容外科で働きませんか?:全国19院。医師、看護師ほか募集中