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第六話『寝不足』

昨日から寝ていないのでかなり眠い。
眠気を必死に耐えながら何とか柊町駅に着いた。
そこから家まで徒歩なわけだが、どういう風に歩いてきたか記憶が曖昧だ。
ミイラのような足取りのまま自宅の玄関にたどり着いた。

「ううぅぅ〜……、やっと着いた。」

すぐにでも眠りたかったのだが……

プルルルル……
まったく、本当にタイミング悪く電話がなる。
こんなタイミングで電話してくる奴とは絶対気が合わないな。
シカトしても良かったが、親父からの電話だったら出てやらないと帰ってきたときに大変なことになる。
眠いが出なければ……

「もしもし……」
「よう!!元気か〜?」
まったく……
「うち新聞、間に合っていますので。それじゃ」

チン!!
乱暴に受話器を降ろす。
しかし、数秒も待たずに
プルルルル……

「はい……」
「いきなり切るなよ。」
「お前のタイミングの悪さには失望したよ。誠也。」
「!?なんだよ。分かるように言え。」
「寝てないんだよ。だから寝かせろ!!」
「徹夜!?お前が?受験勉強でもしてたのか?」
受話器の向こうのふざけた感じで笑う誠也。
ああ、そうか……友恵の子と知らないんだよな。
やっぱ伝えておいたほうがいいよな。

「………」
「……お〜い。健介ぇ〜?寝ちまったか??」
「……友恵が昨日倒れた。」
「えっ!?……どういう事だよ??」
一瞬で誠也の口調が難くなる。
「救急車で欅総合病院に運ばれて今は検査入院してる。けど今朝の様子を見る限り大丈夫そうだ。」
「そうか……良かった……」
どうやら落ち着いたようだ。

きっと今の誠也の立場が俺だったらそのまま受話器に食って掛かるようになっているだろう。
それなのに誠也は俺の拙い説明で友恵の様態が安心できるものだと理解できたのだ。
ふざけているときは気付かないが誠也は俺や友恵よりずっと大人だ。
こういうときにそれを思い知らされる。
ほんと……誠也には敵わないな……

「で、健介。お前は昨日からずっと友恵の傍にいてやったんだな」
「ああ。そういうことになるな」
「友恵、喜んでたろ?」
妙に嬉しそうな、楽しそうな感じの誠也。
「ん……分からん。寝起き早々に殴られたからな」

まあ、99%俺のせいなのだが……
喜んでた?
そういう風に感じなかったが……

「まあ、わかったよ。お疲れ」
「サンキュ」
「塚本と泉には俺から伝えおいてやるよ。明日にでも皆で見舞いにでも行こう」
「ああ……それじゃ俺は寝るわ」
もう睡魔に抗うことは出来ない。
「お休み」
誠也のその声を遠くに聞きながら電話を切り、部屋に向かう。
ろくに着替えもせず、布団に倒れこむ。と同時に意識がシャットアウトされた。




香月モトコはカルテを見て深刻な表情を崩すことは出来なかった。

普段からも仕事に対して真剣に取り組んでいないわけではないが、この患者の容態はその普段の「度」を越えて考えなければならなかった。

「ふぅ……」
思わずため息も出てしまう。
「先生、お茶です」
「ああ、ありがとう」

ナースが持ってきてくれたコーヒーに口をつけながら、再度そのカルテに目を通す。
先ほど見たレントゲンもそうだが、何回も目を通したからといって結果が変わるわけではないのだが……

「そのカルテ……昨日、救急で運ばれてきた患者さんのですよね」
「ええ」

コーヒーを運んでくれたナースが横から覗くようにカルテを見ている。
自分の思案顔がこのナースに興味を与えてしまったようだ。
だた、ナースのほうもわきまえるようで、こちらから話を始めない限り込み入った話は聞いてこない。
普段ならそこで話を終えてしまうのだが……

「今日の検査結果が出てみないとなんとも言えないのだけれど……あまり、いい状態じゃないみたい……」

医者がスタッフや患者が不安がるようなことは言うものではい。
分かってはいるのだが……

「……そうなんですか」
「ええ」

それきり、ナースは黙ってしまった。

「ごめんなさいね」
「いえ……聞いたのは私ですし……気にしないでください。」
「ありがとう」

「それでは私はこれで……」

ナースは頭を下げ、扉に向かっていく。

「コーヒー、ありがとうね」

部屋を出て行こうとするナースにコーヒーが入ったカップを持ち上げてみせる。

「はい、先生もあまり根詰めすぎないでください。」

そういって扉の向こうに消えていった。
ナースが消えた扉から、もう一度カルテを見た。
やはりそこに書かれている結果は変わらない。

「ふぅ……」

もう何度目になるか分からないため息がまた一つ……





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