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第一話『誰の夢?』

  1996年8月某日

「健介ってさ……夢…とか有るの?」
「は!?」
唐突に友恵がテレビを見ていた視線を俺のほうに向けた。
いきなりの質問、そしてその意味不明さに唖然となる。

「なんだよ?いきなり……」
「いやね……健介見てるといつも思うんだよね〜。『こいつ、何考えて生きてるんだろう』って……」
……それは俺が何も考えていない「馬鹿」みたいじゃないですか。

「だからね、夢。健介にも有るでしょ。将来なりたいものとか、こんな事したいとか。」
…………。
「どうなの?」
……………。
「ねぇ!!」
「ない!!」
「へ!?」
「そんなものは無い。っていうかまだそんなもの考えなくたって良いだろ。何年も先の事なんて考えたってしゃーない。」

友恵が呆気に取られた顔を俺に向けてくる。
うん!!我ながらとてつもない開き直り。

「つまんない奴〜。」
がくっっ……。
「なんだよ。じゃあお前には有るのかよ?」
「えっ!?」
「夢だよ。」

一瞬、友恵が黙ってしまった。
売り言葉に買い言葉で言ってしまったが……聞かないほうがよかったか?
「………あるよ。」
顔を上げた友恵はすこし顔が赤かった。
???
「なんなんだよ?」
「……………け……。」
「け?」
「……じゃなくて、小説家!!」
思わずズッコけそうになる。
頭より体を動かす方が好きなお前小説とかそんな文学の最先端に憧れるとは
大体、その前の「け」ってなんだよ?
そう聞き返したかったが友恵が耳まで真っ赤にして俯いてしまったのでやめておく。
今の友恵をこれ以上からかうと後で何をされるか分かりきっている。
間違いなく俺の身体は友恵の拳によって「片道月面旅行」させられてしまうだろう。
………
さわらぬ友恵にタタリなしだ。

そのあと取りとめもない時間を無言で過ごし、友恵が帰る時間になった。
そろそろおばさんが仕事から帰ってくる時間。友恵には食事の準備があるで大体いつもこの時間帯に帰ると言い出す。
というか、何故か友恵や誠也は意味もなく日中俺の家に居座る。……別に良いのだが………。

「よし決めた!!」
玄関で帰り支度をしていた友恵がいきなり大声を出した。
「?なんだよ??」
今日はさっきからおかしいぞ、お前。
まあ今の声を聞く限り元気は取り戻したみたいだが……。
正直、今日のお前のテンションは掴みにくい。

「健介の夢。」
「俺の夢?」
「そう!!今、私が決めた!!」
「はぁ!?」
「健介の夢は『夢を見つける事』です。わかった?」
先生が園児に「めっ!!」をするように友恵が俺の鼻先に指を立てて言った。
「………。」
あまりの唐突さに声が出ない。
「返事は?」
「はいっっ!!」
半ば強制的に返事をさせられる。
今の友恵はいつも以上の凄みを感じる。
「それと……」
まだあるのかよ………
「私の夢が叶うのが先か、健介が夢を見つけるのが先か勝負ね。それで、お互いがちゃんとそれを実現できたかお互いに確かめ合うの。いいわね!!」
思わずため息が出てしまった。もう好きにして下さい……。
「はいはい。」
「よし!!じゃあ、さよなら。」
「ああ……じゃあな……。」
友恵は今日一番の笑みを見せて玄関を閉めて姿を消した。
今日のあいつは良く分からん感じだったがご機嫌ではあったようだ。
友恵の最後の笑顔が頭から離れなかった。
自分の顔が熱くなっていることに気付いた。



1999年 4月某日

………。
懐かしい夢を見た。
友恵が俺の夢を半ば強制的に決めた時の……。
約束を守っていない俺。
俺はまだ夢を見つけていない。
ただ流れに身を任せて時間を過ごしているだけ……。
それでも周りは前に進んでいると言ってくれる。
でもそんなの何も考えていないだけ。前に進むのとはまったく違うと…思う。
「……はは……」
思わず笑い声が出てしまった。
ここまで自分でも分かっているのに出来ないなんて……完璧なアホだな。
窓の方を見てみる。
昨日はカーテンを閉めるのを忘れたからそのまま外が見える。
そこにはむせ返るぐらいの桜が咲き乱れていた。
今の俺にも分かることはある。

時間はゆっくりとだけど進んでいて、その中に俺は生きている。
そしてその中に友恵がいないという事も……。


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