第二話『放課後の会話』
「ふう……ここはいつまでたっても変わらないな……。」
俺は草むらに横になってこの丘のから見える景色を眺める。
今日の学園生活も何事も無く終了。
昨日のことで少しクラスの目が痛かったが……まあ、俺が悪いので仕方なく我慢した。
いつもどうり誠也と帰ろうと思ったが、
「わるい……どうしても部活の方に出なきゃいけなくて……。」
部活自体は六月末で終わったらしいのだが、アイツはああ見えて人当たりが良く、世話好きなので引退しても何かの仕事を任されるのだろう。
そうして手持ち無沙汰になった俺は誠也を待つついでに、久しぶりにこの丘に来たというわけだ。
ここは幼い頃からの俺のお気に入りで、誠也も知っている。
そして……
あーヤメヤメ。
考えていた事をかき消そうと再び景色に意識を向ける。
ここからは橘町の景色が一望できる。反対には欅町。
授業をふけて時間を潰すにはうってつけの場所だ。
他にもここを知っている奴はいるらしい。
現在の我が脳内メモリーの大半を占めている鳴海、平、速瀬さん、そして涼宮さんもここの存在をしっている。
たまにここに来てみると誰かいるのは知っていたがそれが彼らだったのかも……。
もしそうだったら、何かしらの因縁!?
………
「眠い……」
昨日あれだけ寝たのにまだ俺は眠り足りないらしい。
まあ……いいや……
今は眠気に身を委ねよう…………グゥ……
タッタッタッタッ……。
ガラ!!
勢い良く部屋の扉が開かれる。
「健介!!朝よ!!起きなさい!!」
騒がしくそう叫ぶ声に眠い目を擦りながら身を起こす。
「……あと五分。」
「駄目!!そう言っていつまでの起きないんだから!!!」
頭の上でガ鳴りたててくる声。
「うぅぅぅん……うるさいな……っていうか、友恵。なんでお前がここにいるんだよ。」
「オジさんが出張中は私がこの家の全てを任されているんだから。ほら、さっさと起きる!」
親父がいないのなら、現時点でのこの家の主人は俺だぞ……なんて心のなかの抗議は通じるわけも無く、
友恵は寝ていた布団をひっぺがし、俺を床に叩きつけた。
「いってーなー!!」
俺の言葉には耳も貸さず友恵は布団をたたみ、部屋を出ていこうとする。
「おい!!」
「早く着替えな。朝ご飯作ってあるから。」
取り付く島なしですか…はぁ……
着替えて台所に行くと朝飯が出来あがっていた。
いたってシンプルな和食がテーブルを飾っている。
「いただきます。」
友恵が用意してくれた朝飯を食べてみる。
(おっ!!)
「……どう?美味しい?」
テーブルの向かいに座っている友恵が真剣な目で俺を見てくる。
………
何となく素直に答えるのは恥ずかしいが用意してくれた手前、冗談でかえすのも気が引ける。
………………
「まあまあだな。」
「美味しい」と言う勇気が出ず、何となく言葉を濁してしまう。
「……そっか……。」
そんな俺の答えに少し暗い表情で友恵が笑った。
いつも元気な友恵がそんな顔をするとなんだか心が痛む。
「……まあ…これぐらいの方が毎日食べるにはいいんじゃね−の?料理する奴の上達具合も分かるし…。」
すかさずフォローしている自分が情けない。
今……恥ずかしいこと言ってるぞ、俺。
でもまあ、そのおかげで友恵にいつもの笑みが戻ってきてくれたので良しとする。
「何?それは私に毎日、ご飯をつくって欲しいってこと?」
良くなかった……いつも以上すぎた……
意地悪そうなふくみのある笑みの間違いだった。
昔からコイツは俺の弱みを握って楽しむクセがある。
そのせいで俺がどれだけ泣かされた事か……
「いいよ…。毎日でも……」
「えっ!?」
あまりにも小さな声で聞き取れなかった。
友恵はすでに洗い物の為、背を向けていたので表情をうかがうことは出来なかった。
なんなんだか……?
お互いに無言になってしまって気まずくなってしまう。
何か話しかけるって雰囲気でも……ないしな……
居間には食器を洗う音と俺がお茶を啜る音だけが響く。
ピンポーン……
「「!!」」
不意にチャイムが鳴る。
「誰だろう?」
「あっ、私が出るよ。」
そう言って友恵がすばやく玄関に向う。
(この雰囲気が嫌だったのかな?)
そんな事を考えながら食後の茶を啜っていると、
「よっ!今日から夏休みだってのに早起きだな。」
朝から元気な奴だ。
夏休みの初日の朝に我が家に来るとはチミ、他に行くところがないのかね。誠也君。
「友恵のやつがたたき起こしに来てさ。」
まあ誠也のおかげでさっきの雰囲気も流れるだろう。
さっきの俺と誠也の会話が聞こえたのだろうか……
「ちょっと!!私が起こさなかったら健介、夏休み中寝続けていたわよ。」
さっきまで雰囲気は何処へやら、いつもどうりの友恵が玄関から戻ってきた。毒付きで、
「んなわけあるか!!!」
すかさず反撃に出る。
「ははっ。いつもいつも御苦労なこったな……」
誠也が笑いながら俺と友恵を見ている。
まあ、生活の大半を友恵に面倒見てもらっているで反論が出ない。……が、
「けどな〜……」
「なによ!!」
「はっはっはっ……」
俺と友恵が言い合い、誠也が我関せずでそれを楽しむ。
幼い頃から続く俺達のリズム。
平凡だけど、これからもそんな日々が続いてくれればいいと思っている。
間違っても口には出さないが……
「今年は中学最後の夏だな。」
唐突に誠也が話を切り出してくる。
そうしないと俺と友恵のバトルは終りを迎えないからだ。
「んっ!?どうした。いきなり感慨深い声を出して。」
「いや…来年は俺達も高校生なんだなって思ってさ……。」
誠也が遠い目をして言う。
高校生や大人から見れば対したことではないのだろうが当事者の俺達には何かと思うところがあるのだ。
学校の仲間ともばらばらになるし……
俺の考えていた事が分かったのか
「でも私達は一緒でしょ!」
そう言って友恵が俺と誠也の首に腕を回して近づける。
「来年も三人とも同じ校舎に通うの。あの高台の白陵柊にね。」
「「ああ」」
友恵の言葉に俺と誠也は頷く。
「まあ、健介は頭悪いから合格するかどうか分からないけど…。」
友恵が俺のことをバカにしたような目で見てくる。
「一言多いんだよ。お前は!!」
そう言ってまた、いつもどうりの三人に戻っていく。
三人とも笑っていた。
誰もがそれがいつまでも続くと信じて疑わず……
この夏の終りまでは……
「むぅ……んん……」
肌寒さを感じて目を覚ました。
「うっ……。あの頃の夢を見るなんて……。」
この場所が俺をあの頃に引き戻すのだろうか?
俺と誠也と……友恵の大事な場所だから……ここは…。
(いかん、いかん。このまま沈み込むと底無しだぞ。俺。)
空を見上げるとすでに満天の星空、時計を見てもすでに八時。
いくら季節が夏だからといって、夜風の中寝るのはいささか厳しい。
もう帰ろうと固まった身体を伸ばしながら起きあがろうとした時、
「誰?」
後ろの方から女の声が聞こえてくる。
……こんな時間に?
その声の主は俺のいる所に近づいてきているようだ。
「誰なの?……孝之?」
孝之?………あっ!!鳴海の事だ。
そしてその声もよく聞いてみると聞いたことのある声だった。
声は怯えながらも俺の方に近づいてくる。
……顔、出した方が……いいよな?
「鳴海じゃないですよ。」
咄嗟になんといって出ていけばよいか分からず、意味不明な言葉で返してしまった。
「あっ…、村上……クン?」
あちらも俺なんかが出てくるとは思わなかったのであろう、かなり動揺している。
「速瀬さんもこんな時間にどうしたんだ?」
速瀬さんはすぐにいつもの顔にもどり、俺の質問に答えてくれた。
「水泳部でね。試合も近いから自主練してたら遅くなちゃって……。」
ん!?なにか余り考えたくない想像が頭をよぎる。
「……と言うと……誠也は……。」
俺のわけの分からない顔に?マークを浮かべながら最後の一言を速瀬さんが言う。
「ああ川村君のこと?いつも一緒に居るもんね。彼なら練習が終わったらさっさと帰ったわよ。」
………ふっ。
………ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
誠也を待っていようとしたのに見事に目論み失敗。しかも何時間も無駄に!!
こうやって人は人生の貴重な時間を無駄に浪費していくのだろうか……
「あの〜大丈夫?」
速瀬さんがうちひしがれる俺に恐る恐る話しかけてくる。
マズイ…。ひかれてしまったかも…。
気を取り直して、自分をしっかり保て村上健介!!「カワイソウナ人」&「イタイ人」になってしまうぞ!!
「村上君はなんであそこに?」
校門を潜り、坂を下りながら速瀬さんが興味深げに聞いてきた。
速瀬さんの方はなんでも、鳴海と平にこの坂の桜について怖い話を聞いたとかで一人で帰りずらかったらしい。
…こんな時間にあの丘に一人で行くほうがよっぽど怖いと思うんだが……
まあ、そんなわけで俺は速瀬さんと一緒に帰っているわけだ。
「いやまあ、誠也の奴と帰ろうかと思って。」
他にもなんかあった気がするが、あの夢を見たおかげで忘れた。
「ふうん。村上君って川村君と仲良いよね。」
「仲良いっていうか、腐れ縁みたいなもので……」
俺と誠也って仲良い様に見える?
なんかの間違いだろ。
「私、村上君と三年間クラス一緒だったけど、こうやってちゃんと話したの初めてかも。」
確かに彼女とはずっとクラスが一緒だったが俺はこれが彼女との初会話だ。
「そうかも……。誠也は部活とかで話していたの見てたけど……」
そんな感じで俺達二人は夜の帰り道をお互いにどこか遠慮がちに会話をして歩いた。
だからといってつまらなくは無く、人付き合いの苦手な俺にとって新鮮で面白いものだった。
「それじゃあ私はこの辺で……」
曲がり角にさしかかって速瀬さんが自分の家があるであろう方向に足先を向ける。
「あの!!」
「んっ?」
帰ろうとした彼女を俺は無意識的に呼び止めてしまった。
速瀬さんはこちらを向いて俺の言葉の続きを待っている。
「……鳴海と涼宮さんってうまくいってるのかな?」
こんな事聞くなんて俺はなんて無粋なんだろう。
普通聞かないよな……
「大丈夫!!けっこう仲良くやってるよ。」
速瀬さんはそんな言葉だけを言った。
「それだけ?」
「うん……まあ。」
なんと言って言いか分からず言葉を濁してしまう。
そんな俺に速瀬さんは笑顔で
「昨日ので村上君ってガラのわるい奴だとか思ってたけど、そうでもないね。村上君も孝之と遥の事応援してあげてね。じゃあね。」
そう言って速瀬さんは今度こそ自分の家に向って歩いていった。
「『応援してあげてね』か……」
そう言った彼女の顔を思い出す。
その顔は表面上では笑っていたが、内側では曇っているような……彼女の言葉全てが本心ではないように感じられた。
さっきの言葉の中にどれだけ彼女の本当の気持ちはあったのか……
満天の星空を見上げながらそんな事を考えている自分がいた。
あとがき さて、前回は謎の一味によってこのあとがきコーナーを有耶
無耶にされてしまったわけなんですけど。やっとのことで水月と会話をさ
せるところまでやってきました。ちょっと・・いやかなり、無理あるかな
と思う人もいるかもしれませんがそこはどうか目を瞑ってやってください。
あと、一人新キャラを出したわけなんですが・・・あまりにも『お決まり』
な展開、&設定はご了承ください。なんか俺謝ってばっかりだ・・・
いつか自信を持ってあとがきを書けるようにしよう。それでは!!
(2005/9/6夜 子泣き丸)