第六話『その日の出来事……昔と今』
8月27日
…………
毎年、この日がくる事を恐れている。
自分でもわかる。
この日になるとどれだけ自分が鬱になっているかを、
……いや、自分では分からないほどに酷い有り様なのだろう。
二年前のこの日。
俺は世界で一番大切だったものをひとつ失った。
自分がなんて無力か叩きつけられた。
友恵の命日。
墓の前には友恵のおばさん、誠也、誠也の両親、他何人かの大人がいた。
全ての行事は午前中に終わった。
粗方の人が帰り、誠也の両親、誠也が帰っていった。帰り際、誠也がなにか言っていたけどあまり覚えていない。
関係ない……
最後におばさんが帰った。
ずっと俺を見ていた。
関係ない……
今だけは……何もかも関係ない。
俺はひとり友恵の墓の前に残った。
今だけはなにも考えさせないでくれ。
ただ……友恵の側にいさせてくれ。
明日になれば、またいつもの自分に戻っているから……
今だけは……今だけは……二年前の俺でいさせてくれ。
人はきっと今までに出会った沢山の人と完全に別れることは出来ないんだと思う。
それは人間に記憶という能力があるから……
出会ったその人に二度と会わなくてもその人との出来事は記憶の片隅にいつまでも居座りつづける。
それはふとした事で簡単に浮かび上がり、当事者を困惑させる。
そう当事者さえも忘れてしまっている些細なことでさえも……
でも、友恵との思い出は記憶の片隅どころかその大半を締めていて目を瞑るだけで昨日の事のように思い出せる。
特に今日という日は……
思い出したくない事までも鮮明に蘇ってくる。
その記憶に押しつぶされそうになる。
その時、気付かされる。
ああ……俺はまだ二年前となにも変わっていないんだ。
二時半頃、
いや正確な時間はわからない。
遠くに見える病院の方から救急車のサイレンが聞こえた。
どんな時でもあの音は俺に黒く沈んだ感情を植え付ける。
あの音源のなかで生死をさまよっている人がいる。
側で悲しんでいる人が居る。
友恵の時も……いや、思い出すのは止そう。
ぽつ……
足もとの石畳に黒いしみが出来る。
ぽつ…ぽつ……ざぁぁぁぁぁぁぁぁ……
しみはひとつ、またひとつと増えていき、石畳の色をすべて濃い黒に塗りつぶしてしまった。
雨…か……
傘、持ってきてねーや。
帰るか……
また、来てもいいだろ?友恵……
答えの帰らぬ石をもう一度見てから踵をかえす。
友恵は俺がまた来ることを許してくれたのだろうか?
びしょ濡れになったまま電車に乗り、柊町駅で降りる。
えっ!?
……なんだよ?………あれ……
そこにはグシャグシャに形を変形させ、その用途を完全に失った電話ボックスがあった。
回りには『KeeP Out』の黄色いテープ。
車でもぶつかったのだろうか?
ボックスの近くの地面にあきらかに雨で濡れた色と異なる色がぶちまけられていた。
すぐ分かった。
人の血だ。
「つぅ!?」
もう感じる事もないはずの生臭ささが俺の鼻に纏わり憑く。
さっきの救急車……
きっとそういう事なのだろう。
でも俺には関係ないな。
その人がどうなろうと、赤の他人の俺がどうしてあげる事も出来ない。
それに今の俺の精神状態ではなにも考えられない。
早く、家に帰ってシャワー浴びて布団に潜り込みたい。
後数日で夏休みも終わるんだ。
またツマラナク、クダラナイ事を繰り返す学校生活が始まるはずなんだ。
この時はこの程度にしか思っていなかった駅前の事故。
しかし、この事故が自分の知る沢山の人の人生を……世界を……狂わせて、悲しませていただなんてこの時の俺は想像も出来なかった。
そして、俺自身がその狂った渦の近くにいる事も……
あとがき 暗い話でスイマセン・・・子泣き丸です。この駄文小説ももう
六回目。思えば遠くに来たもんだ・・・・ってまだまだ始まったばかりです
さあ、本当の君望なら一章の終わりである。○○○の交通事故まで来ました。
ここの小説でもこのイベントはひとつの分岐点になると思います。
孝之たちの変化を見て、それを自分と重ねてしまう健介。そこに駄文小説の
キーポイントがあるかも・・・という風に読んでいただけると幸いです。
(2005/9/10 子泣き丸)