第七話『二学期……一学期との違い』
9月20日
夏休みも空け二学期が始まった。
変わらぬ平凡な毎日が始まると思っていた。
しかし、違っていた。
クラス中、いや学園のいたるところで一つの話題がもち上がっていた。
『3年B組 涼宮 遙 自動車衝突事故で意識不明の重体』
夏休みの最後に駅前で見た惨劇の後、
あれがそういう事だったらしい。
学校のニュースに疎い俺がこの事について詳しく知ることができたのは誠也と鼻の良い動物的感覚で情報を掴む後輩のおかげだ。
誠也と後輩は俺がこんなあまりいいとは言えない噂に興味を示したのに疑問を持ちながらも丁寧に内容を教えてくれた。
俺は最初、信じられなかった。
しかし、涼宮さんの彼氏であった鳴海。
親友の速瀬さん。平。の顔を見たら嘘でない事はすぐに理解できた。
特に鳴海は酷く、この世の終り、全ての希望を失った顔をしていた。
一学期に見た奴とは別人のようだった。
……
ズキッ!!
胸に痛みが走る。
なんだよこれ?
わけの分からぬ痛みに多少の不安と苛立ちを感じてる自分がいた。
(こんな形でここにまた来る事になるとは……。)
俺は欅総合病院の建物の前に立っている。
二年前からここには意識して来ないようにしていた。
ここには辛かった思い出が数え切れないほどあるから。
でも、もうそんな事を気にしているわけにもいかない。
少しでも前に進む為に……
涼宮さんには沢山感謝してるんだ。だから……
とは言ったものの面会させてもらえるかどうかも分からんのに、バカだな俺は。
一応、受付の人に聞いてみる。
「あの…涼宮 遙さんの病室って何処でしょうか?」
「え…」
受付の人が困っている。
おいおい…、一応アンタもプロ?だろしゃきっとせんか、しゃきっと。
慌てている受付の様子を見ていると
「涼宮さんは家族の方と一部の人を除いて面会謝絶よ」
背中で女性の声がする。
俺はその声に聞き覚えがあった。
「久しぶり。村上君」
「香月先生……。お久しぶりです」
先生は友恵の主治医だった人で、俺もたくさん迷惑を掛けた。
二年前と同じで何処かダルそうな物腰だ。
「さっきも言ったけど涼宮さんとは会わせられないの。ゴメンナサイね」
「いえ……、俺の方こそ押しかけたりしてすいません……」
「……久しぶりに会ったんだしちょっと話しましょう。丁度時間も空いてるし」
そう言って香月先生は俺を連れて屋上へ向った。
「ふぅ……」
先生は屋上に着くなり煙草に火をつけた。
先生はかなりのヘビースモーカーらしいが院内の喫煙所で吸っていた姿は見たことがなかった。
「どお?」
煙草を口から離し、煙を吹く。
「どおって?」
先生がこう切り出す時はいつも決まっている。
「少しは立ち直った?」
………やっぱり。
「………」
俺の顔を見て先生が笑った。
「まあ、自分では分からない変化っていうのもあるしね」
「そんな事……」
「ないって言うの?でも私から見ればあなた、かなり違って見えるわよ。まず前以上に顔に覇気があるわ」
煙草を早々に携帯灰皿に押しつけ、新しいのに火を着ける。
「あの時の君には相当手を焼いたわ。患者の比奈本さん以上にね。私の言う事全てに突っかかって……」
「すいません……」
「別に責めてないわ。あれは私にとってもいろいろ考えさせられたし……。今の私があるのもあなたや比奈本さんのおかげだと思ってるの……」
そう……今こうして先生と話していられるのも友恵のおかげなんだ。
こうやって先生と話しているとなんだか胸につかえてたモヤモヤがはれる感じがする。
「涼宮さんとはどういう関係?」
「去年まで同じクラスだったんです」
それだけの理由でここに来た訳ではないが、あえて言わない。
先生もそれを察したのかそれ以上なにも聞いてこなかった。
そのあと何度か他愛もない話をして屋上を離れる事となった。
俺はまた先生に着いていって病院を出ることになったのだが……
「??先生。ここ来た道と違いませんか?」
ここの構造はある程度知っている。
この道はどう考えても遠回りだ。
「いいのよ」
先生はそうとだけ言って歩きつづける。
ひとつの病室の前で立ち止まる。
「直接会わせることは出来ないけど、たまたま通りかかって空いてたドアから見える事は別にあることだから。それじゃあね…村上君」
そう言って先生は病室の中に入っていった。
ドアを開けっぱなしで……
俺は悪いとは思いながらもそこから病室を覗いた。
あっ!!
ベットに寝ているのは……涼宮さんだ。
その横に腰掛けているのは……鳴海。
毎日通っているって聞いてたけど本当だったんだな。
鳴海はずっと涼宮さんの寝顔を見ている。
その目は虚ろで本当に涼宮さんを見ているのかさえ分からない。
先生が入ってきてもなんの反応も示さない。
ズキッ!!!
う!?
また胸に痛みが……なんだよこれ……
コツ……コツ………
「!?」
誰かが通路の向こう側からやってくる。
いくら香月先生に許して?もらってるとはいえ、こんなところ誰かに見られたら怪しい奴確定だ。
近づいてくる人と反対方向の通路の影に隠れて涼宮さんの病室の扉を伺う。
やってくる人が通り過ぎたら病院を出よう。
コツ…コツコツ……
近づいてくる足音。
その足音の主の姿を見たとき、俺の意識は状況を理解できなくなっていた。
「あ、茜……ちゃん!?」
欅町での水泳大会、夏祭りの夜を一緒に過ごしたあの元気を絵にしたような茜ちゃんがなんでこんなところに?
本当に何故?
今の俺の状況に彼女が出てくる理由はない。
そんな俺の混乱を余所に茜ちゃんは花を生けた花瓶を抱えて通路を歩いてくる。
彼女の表情は俺が見たことのないものだった。
元気とは程遠い………何というか……いや……表面上は普通なのだけど……無理してる感じだ。
俺は……その表情を知っている。
その感情を知っている。
あれは……何か……大切なものが自分の元から零れ落ちてしまったときの……
ズキン!!
先ほどとは違う胸の痛み。
これは俺の中で最悪の想像を打ち消そうとする痛み。
そう。
俺はきっと茜ちゃんの姿を見つけたときに気付いてしまったのだと思う。
彼女がここにいる理由。
それは……
茜ちゃんがある病室の扉の前で立ち止まる。
扉に一度手を掛けながらも開けることが出来ないのだろう。
扉の向こうには信じたくない現実。
それでも彼女は意を決するように扉を開いた。
さっき以上に元気を装った仮面を被りながら……
茜ちゃんが病室に入りドアが閉められた。
俺は隠れるのをやめ、茜ちゃんが入った病室の扉の前まで来た。
その病室は……
悪いとは思いながらも締められたドアに耳を当てて中の声を聞く。
『お姉ちゃん……花瓶の花取替えてきたよ』
血の気がひいていくのが分かった。
氷水を頭からぶっかけられた以上の悪寒が体を支配する。
中から聞こえてくる茜ちゃんの声、その病室の主の名、先ほどの香月先生との会話が俺の内の最悪の想像を確定し、証明した。
『ほぉら、お兄ちゃんもお姉ちゃんの寝顔見つめてないの!お姉ちゃん恥ずかしいってよ』
茜ちゃんの明るい声……しかしその声が逆に精一杯の強がりを強調していた。
……茜ちゃんのお姉さん……涼宮さんだったなんて………
その彼氏、お兄さんが鳴海だったなんて……。
頭の中が急速に流れこむ膨大な情報に熱くなっていく。
知らないうちに頬に涙がつたっていた。
くそ……なんで?なんでだよ!!
あの時、茜ちゃん嬉しそうにお姉さん達の話してくれてたじゃないか!!
なのに……どうしてそんな幸せを簡単に壊されなくちゃならないんだ!!
……………
おかしいじゃないか……
おかしいよ………
ドアの向こうから聞こえる茜ちゃんの声が俺を逃げるように病院を後にさせた。
あとがき この回でやっと健介は茜が遙の妹だと知ります。このシーンはもっと上手に
書きたかったのですがスイマセン・・・ボキャ貧で・・・これが子泣き丸の限界です・・・
さて第一章もクライマックスです。健介がどのように本来のシナリオにかかわってくるのか
??遙と健介は何時どこで知り合ったのか?健介は事故のことを知ってどういう行動をとるか
?そんなところですね。あとモトコ先生の雰囲気は書くのにとても大変です。
読んでくださっている皆さんこんな下手な小説を読んでくださって本当に有難うございます。
(2005/9/13 子泣き丸)