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第三話『仲間』

ガラララララララララ・・・・・・
あまり上品とはいえない居酒屋の戸を開ける。
21時ちょうどという時間のためか店内は仕事帰りの会社員でごった返していた。

「お〜い!!こっちこっち!!」

奥の座敷部屋から誠也が顔を真っ赤にしながら大声で俺のことを呼ぶ。
もう相当飲んでいるのか俺を呼ぶ言葉もろれつが回っていない。
(まったく・・・・・そんなに酒強くないのに調子に乗って飲んだんだな・・・・・)
みんなの前で一気飲みをしている誠也の姿が頭に浮かぶ。
やつは場を盛り上げようとすぐにそうゆう暴挙に走る。
まあ、それもやつなりの周りへの気遣いだ。
硬くなっていた新入生を早く和ませようとしたのだろう。

「遅くなって悪かったな。新入生は・・・・・もう帰っちまったか・・・・」
「まったく〜〜・・・先輩遅すぎで〜す。」
泉がいつの間にか俺の背後から首に手を回してくる。
「うわっ!!酒くせ!!泉ぃ・・・・お前、一体どれだけ飲んだんだよ?」
「ほんのちょび〜っとですよ〜〜」
そういった泉が指差したテーブルの上にはビール瓶が八本も置かれていた。
八本?
一人で??
(あ、ありえね〜〜〜!!)

泉を引き剥がし、その他の酒臭いサークルメンバーを掻き分けてやっと誠也の所にたどり着いた。
すぐそばに塚本もいる。
俺が来たことに気付いたのか、手を挙げただけの挨拶をしてくれた。

高校は東京の高校の寮に入っていた塚本は白陵大学に入学するためこっちに戻ってきたのだ。
中学時代からスポーツ全般に秀でていた塚本は高校でもかなり名を上げていたらしい。だから大学もそれで進めたらしいのだが、塚本曰く「さすがにいつまでもガキでいられないしね。体だけ動かしてればいいってわけにはいかないよ。」とかで地元の白陵を一般で受験したそうだ。
いまは実家から通っているらしい。
他にも色々な事情を抱えていそうな口ぶりだったが、その辺の事を塚本のやつはあまり話さないのでわからない。

すでに意識が朦朧としている誠也をほうっておいて、ひとりまともな塚本の隣に座る。
「で、どうだった?いとしの母校は?」
「う〜ん・・・特には・・・・・あんま変わっていなかったしな。」
そのかわり、変わり者の講師二人に出会ったが・・・それに・・・・・
それを思い出したら、口に運ぼうとしたグラスを持つ手が止まった。
「・・・・・・・」
「どうした?」
塚本が訝しげに俺の顔を覗いてくる。
普段は面倒くさそうにしている塚本も誰かが普段見せないような不安顔を見せると途端に世話焼きになる。
そんなところが・・・・・・あいつと被ったりしたことも昔はあった。
頭を振ってそんな考えを消す。
「いや・・・なんでもない。」
「?」

話題を変えるついでに周りを見渡してみる。
すでに酒臭い座敷にいつもいるはずのあいつがいない。
このサークルの三年代表のあいつが先に帰るとは到底思えない。
「おい塚本。」
「なに?」
隣でチビチビやっている塚本に声をかける。
「平は?」
「ああ・・・平なら新入生を駅まで送っていったよ。地方から出てきてる奴もいるし、この辺の案内ついでにね。」
「ふ〜ん」
と、言うことは入れ違いか。そんな団体来る途中、気付かなかったな・・・。というか、いろんな事考えてたら、いつの間にか居酒屋の前にいたからな・・・・

そこで意識は数時間前の準備室に戻される。
あのときの・・・やっぱり茜ちゃんだったよな・・・・
今になってみるとあまり自信がなかった。
彼女は俺の顔を見るや否や走って教室を出て行ってしまったし、俺もいきなりのことに気が動転して・・・・・
たしか・・・・彼女と最後に会ったのは高校三年の二月頃だった。あの時のことは・・・忘れようと思っても忘れられない。
あれ以来、茜ちゃんには一度も会わなかった。
だから、俺の中での涼宮茜のイメージはその頃のものだ。
チンマイくせにませてて、元気を絵に描いたような女の子。
初対面の俺にも遠慮なしに会話をしてくれて・・・
お姉ちゃん、お兄ちゃんが大好きで・・・
なのに・・・

そんな事を考えながら酒を飲んでいると・・・・

「いや〜・・・まいった、参った・・・・」
なんかどっと疲れた顔をした平が帰ってきた。
平はすぐに酒臭漂う屍の山からまともを保っている俺と塚本を見つけ、こちらにやって来た。
「お疲れ。」
塚本が平にねぎらいの言葉をかけながら近くに置いてあった水を手渡した。
「ああ、ありがと。まったく・・・大変だったよ。ほとんどの新入生は未成年だし緊張してたから、まあそいつらは酒も飲まないし、まとも保ってたから大丈夫だったんだけど・・・、問題は浪人して入ってきたやつだよ。受験勉強や浪人生特有の家庭での肩身の狭さから解放されたもんだから、がばがば酒飲んで・・・・駅まで連れてくのほんっとに骨が折れたよ。」
平は俺の向かいに座りながらぼやいていた。
しかしそうやって愚痴りながらも面倒見のいいこいつのことだ。全員しっかり家路につけるよう面倒見てやったのだろう。
「悪かったな・・・遅れちまって・・・・」
「いいって、新入生歓迎会とは言うものの、実際のところいつもの飲み会と大差なかったし・・・・。それより村上、お前の方こそ大変だったんじゃないのか?教育実習初日だったんだろ。無理してこなくても良かったのに・・・」
「ん・・・ああ。でも俺、サークル活動の方さえちゃんと出ないのに、歓迎会なんて大変な行事を平や塚本だけで回すのはつらいんじゃないかなって・・・・・誠也の奴は盛り上げようとして最初のほうでピッチ上げすぎてリタイヤだろうから・・・・」
いつの間にか俺のすぐ横で寝息をたてている誠也を見ながら言う。
「はは・・・まあな。確かにちっとつらかったな。この後、そこいらでいびき立ててるやつらも店から追い出さなきゃいけないし、正直助かったよ。」
疲れた笑みを浮かべて平は言う。
そんな平を見ると本当にすまなく思ってしまう。
「ほら、そんな堅苦しい話はやめて私ら三人だけでも少しは飲むことにしよう。」
俺と平の会話を黙って聞いていた塚本が酒の入ったグラスをひとつずつ俺らの胸に押し付けてきた。
「そうだな!!」
「ああ。」
「それじゃあ」
塚本がグラスを目線より少し高く掲げる。
「新入生の歓迎に・・・・」
「村上の初教育実習に・・・・」
「そこいらの酒臭い屍の鎮魂に・・・・」

「「「カンパ〜イイ!!」」」

三人で軽く乾杯し、酒を一気に飲み干した。

その後は些細なこと、最近のこと、歓迎会で起きた馬鹿なことを平と塚本から聞いて、俺は久しぶりに行った白陵柊の様子やそこで出会った大学の伝説の人物の話をしたりして残り短い飲み会の時間を楽しんだ。

現在の平との関係・・・
高校時代の俺じゃとても考えられないことだった。
平とは高校三年の三学期の一件で完全に疎遠になると思っていた。
大学でも違う学部だし、きっと平の方もそう思っていたに違いない。
なのに今では、こうして酒を飲み交わし、お互いの世間話などをしている。
こうなれたのは誠也のおかげだ。
誠也は高校時代から平と仲良くやっていたから、俺の微妙な変化と平の普段と違う素振りで俺たちの間にあったトラブルになんとなく気付いていたのだろう。
大学入学早々に俺と平を何かと会わせるよう仕向けてきた。
最初こそ煩わしいだけだったが、誠也の真剣な俺への気遣いへの感謝や少しずつ増えていった平との会話を楽しむようになり今のような付き合いをするようになった。
今ではもっと早くにこいつと友人になっていれば・・・と思うほどに平との付き合いを楽しんでいる。
まあ・・・・それでもお互いに高校最後にあった一件については触れないようにしている。それは・・・しょうがない事なのかなと思うしかない。あれは半分以上俺が悪いようなものだし、今更蒸し返したところでどうとなるものでもない。


小一時間してやっとこの新入生歓迎会(後半はただの飲み会)はお開きになった。
俺と平と塚本は泥酔しているサークルの仲間を起こし、店から追い出すように外に出した。
家が橘町の奴はここで別れ、残りは駅へ。
そうやって少しずつ人数が減っていき、柊町駅に着く頃には俺、誠也、塚本、泉、平の五人だった。
「じゃあ、俺もここで・・・」
「私たちも・・・・」
「さよならです。」
改札を出たところで俺と誠也以外は足先を変えた。
俺らの家は昔から住宅地となっていた大きな家が多いほう辺りにある。
その他の奴らは結構新しく開拓された土地に住んでいる。

「ああ。今日はご苦労さん。」
「いや、気にすんな。それよりほんとに大丈夫か?川村任せちゃって」
平が俺の方にもたれて寝息を立てている誠也を見る。
「ん!?ああ、大丈夫だ。こいつの家は帰りの途中だし、こいつの世話は俺が一番適任だ。」
そう言って誠也の頭をこずいてみせる。
結構強くやったつもりだったが一向に誠也は起きる気配を見せない。
「そうだな。お前と誠也は子供の頃からの付き合いだしね。」
「ラブラブなのです!!」
「ちがうわ!!」
そんな塚本と泉の鳥肌もの極まりない台詞を一蹴する。

というか泉・・・お前あれだけ飲んでおいてすでにシラフの時と変わらないじゃないか。
まあ、普段も酔っ払っているようなテンションだけど・・・
ほとんど飲んでいない俺以上に口がまわるとは・・・
貴様の肝臓は一体どうなっとんのじゃ!!
なんて、
「ま、こうやってだらだら話してるときりがないし・・・」
「そうだな。」
「それじゃ・・・・」
「また明日で〜す!!」


そう言って平、塚本、泉は夜のひと気の少なくなった街中に消えていった。
「じゃ、俺たちも行くか。」
「ぐ〜・・・・」
いびきで返事をする誠也。
いつもは俺が誠也の世話になっているのだけれど、今日は俺が酔った誠也に肩を貸して歩いている。
普段とは役割が逆の俺たちだが、たまにはいいかなとも思う五月の夜のことだった。

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