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第二話 『ある暑い日の二人の過ごし方』

一週間後、

欅総合病院前。

土曜の昼ということもあり結構な人の出入りがある。
皆、親類、知人の見舞いを目的に来ているのだろう。
もちろん、体の具合が悪くて病院を訪れている人もたくさんいるのだろうが、
俺の主観では病院というところは主な存在理由である『治療』は朧になっている。

それはきっと五年前、アイツが病気を治すことなく、ここでいなくなってしまったからだろう。

そんな歪な主観を抱いたまま俺は三年ぐらい前から暇をみて、再びこの場に通うようになっている。

五年前とは違う人物に会うために……


いつかの雨は何処へやら、と思えるぐらいに今日は晴天だ。
温度も湿度も夏・真っ盛り。
外につっ立っているだけでTシャツはどんどん汗を吸ってしまう。
俺は避難するかのように病院内に入っていった。


院内は快適な温度に保たれていてエアコンが機動していても寒いと感じない。
俺は額の汗をハンカチで拭きながら受付に向かった。


「こんにちは……えっと、香月先生はいますか?」

「はい、少々お持ちください。」


受付の女性は手馴れた様子で電話を繋いでいる。
俺はそれを手持ち無沙汰な感じで待つ。


「……はい……はい、分かりました。……はい…」


そこで受付の女性は受話器を降ろした。


「どうでした?」

「はい、香月先生は現在、回診中でして三十分ほど待っていただくことになりますが……」

「そうですか、じゃあ出直してきます」


と受付を後にしようとしたとき、


「やっぱり、あなただったのね……」


声だけで大人の女性の雰囲気をかもし出す人物が俺の目の前に立っていた。


「あれ……香月先生……回診中じゃあ……」

「そうよ。で、その途中でここに立ち寄ったの。そこに見知った顔のあなたがいたから声を掛けただけ」


タバコを新しいのに咥えなおして火を点けようとしたが、周りに気付いてライターを仕舞った。
それでも咥えタバコはそのままなのが先生らしい。
先生は自分の持っているカルテを見てから、俺に視線を戻した。


「いつものね。私も今から向かうところだから一緒にいきましょう。」


先生は白衣の端を翻すように俺に背を向け、歩き出した。
俺もそれに倣うように先生のあとについて行く。
病院の廊下をこうやって歩くのは一体、何度目だろう……





目的もなく誠也は橘町のセンター街をひとりぶらついていた。

休日だとゆうのに知人は一人もつかまらず、いつもは自分と同じように時間を持て余してい
幼馴染みでさえ最近では多忙を極めていて安易に呼び出したり出来ない。
以前までの、何事にも興味を示さず、
生きているのかどうかさえ分からなかったときのアイツに比べれば幼馴染みの自分としては嬉しい限りなのだが、何処か寂しくもある。


(あつっ……)


 今日は日差しも強く正に夏といった天気だ。
こんな日に当てもなく外気にさらされているなど正気の沙汰ではない。


誠也は背に感じる汗の悪感触に耐えられず、近くのファミレスに避難することにした。

店の名前は『すかいてんぷる』
最近若者、家族連れと幅広い層に人気のファミリーレストランだ。
まわりの友人があまりこういう所を好ましく思わないので自然、
自分も寄り付かなくなっていたが別に嫌いになったわけでもないのでたまに知り合い程度の人物と入ったりする。
それでもこういう所に一人ではいるのはこの上なく悲しくなるのは認めざるを得ない。


店内はどこにでもある普通のファミレス。
下手に装飾過多でないところが万人受けする理由なのかもしれない。
正午近いということもあり、店内は客でごった返していた。
空いている席を探していると


「いらっしゃいませ!!何名様でしょうか?」


とコテコテのマニュアル挨拶が可愛らしい声で聞こえてきた。


「あ、一人です……ってあれ!?」


自分のことを言われたのだと思い、声の方向に向いたのだが何処にもウェイトレスの姿は無かった。
空耳かと思ったのだが


「一名様ですね。カウンター席でよろしいでしょうか?」


……やはり聞こえる。
声の発生地点は少し下の方のようだ。
視線を胸元まで下げるとそこにまるで小学生or中学生のような身長の女の子がこの店の制服を着て立っていた。
何かの冗談かと思ったが、改めて店内を見回してみると女性店員のほとんどが目の前の彼女と同じくらいの身長だった。


( なんちゅう高尚な趣向を持った店長だこと……)


内心、呆れるような、尊敬するようなわけの分からない心境に陥った聖也であった。



女の子は新人なのか不慣れな感じながらも一生懸命、席まで案内してくれた。
混んでいることもありカウンター席も一つを残らず全て埋まっていた。
我ながら運のイイ。
席に座りながら新人ウェイトレスらしいその子に


「えっと……カツサンドセット。」

「お飲み物のほうは?」

「コーヒーで」

「御意!!」

「御意!?」


その可愛らしい容姿に似つかわしくない時代錯誤な言葉遣いに声を出して驚いてしまったが、
彼女の方は意に介さないようで早々にバックルームの方へ消えてしまった。
もしかして店員がそういう言葉遣いをするっていうキャンペーン中とか……?


まあ、そんなことは置いといて……先ほどからなにやら奥の方が騒がしい。
さっきのウェイトレスが消えていったバックルームの方からだ。
なにやら店員の男と女の声がフロアへの迷惑も考えず口げんかをしているようだ。


「だから、なんでお前はいつもそうなんだ!!客にタメ口きくなって言ってるだろ!!」

「そんなのあたしの知ったこっちゃないさ!!先にアッチが仕掛けてきたんだから迎え撃つのは当たり前じゃないのさ。」

「だからって、再起不能にするなんて……」

「ヤルからには全力で……これ世界の常識」

「世界じゃなくて、お・ま・えの間違いだろうが。この獣人!!」

「あんですと〜〜〜!!」


そして続く謎の破壊音。


(いや〜……最近のファミレスってアクロバティックだな……)


暑さから逃げ込んだはずのこの建物は、異なる熱さで漲っていた。




待つこと数分、
カツサンドとコーヒーがやってきた。
注文を受けてくれた女の子ではなく、金髪ツインテールで目つきが少しキツ目の女の子だった。
大人しくしていればフランス人形のようなという比喩が見合うほどの可愛らしさなのだが、
ふて腐れた態度と何故か少し赤く腫れている頬がそれをぶち壊していた。

無言で目の前に出されるカツサンドセット。
そのまま一瞥されて、一言もなく去っていってしまった。


「……ちょっと」


別にこれと言って文句があったわけでは無いが、客として店員の無作法は注意しても良いと思ったので呼び止めた。
………だが、


「……あにさ?」


振り向いた彼女の目には接客の態度とはかけ離れて異次元に達するほどの邪悪なオーラが秘められていた。


「……いえ、……なにも……」


そのオーラを直感で感じとった聖也はすぐさまそのウェイトレスから視線をはずし


「いや〜、コーヒー美味しいなぁ……」


何もなかったようにコーヒーを飲み干した。


「ちっ、根性なしのボンクラが……」


そんなドスの利いた声がしたが、聞こえないフリ、聞こえないフリ。
振り向いた瞬間のあの目は絶対野獣のそれだ。
確実に自分は獲物として目を付けられていた。
もしあの場面で自分が文句を言っていたら、それを好機と思われ、人生のどん底に落とされるほど完膚なきまでに叩きのめされていただろう。

しかし、脱出した。
我はあの危険地帯から見事生還したのだ。
いくら「臆病者」、「根性なし」、「負け犬」といわれようが生きていること以上の勝ちなどこの世にはないのだ。


聖也はこの世に生あることに感謝しながら勝利のカツサンドを一口食べた。


(……美味い) 



                                                                   つづく……
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