『電話』 プルルルルッ……プルルルルッ…… 「ハイハイ、今出ますよ」 携帯を持って以来、メッキリ仕事が無くなった家庭用電話は久々のお役に張り切ったように喧しく鳴り続けている。 「はい、村上です」 家電に掛けてくるなんて誰だろうと思って受話器をとったら珍しい声が聞こえてきた。 『欅総合病院の香月と申しますが……』 「えっ!!香月先生ですか?」 本当に思いがけない人物からの電話で思わず声が上ずってしまった。 でも、あちらは出たのが俺だと分かったらしく 「村上君?」 「はい、そうです」 『あなたがすぐ出てくれて助かったわ。こっちから電話してなんだけどこっちも色々立て込んでいてね』 先生はすぐに外用らしい硬い声を止め、いつも聞きなれた声になった。 『まあ、あなたには関係無いわね。ごめんなさい。それと久しぶり』 久しぶりというか……俺と先生の間で二週間程度は久しぶりでも無いかなって感じだ。 前は二年近く会ってなかったのだから…… 「で、香月先生が俺に何のようです?」 つい刺々しい言い方になってしまった。 でも少なからず勘ぐってしまう。 香月先生からの電話にはあまりいい思い出がないからだ。 別に先生が悪いわけじゃないのだが、友恵のときの事が頭に引っ掛かってしまう。 「そうね。世間話するって時間もないし、用件だけ手短に言います」 「はい」 『涼宮遙さんが目を覚ましました』 「えっ!?」 先生が言っていることをすぐに理解できなかった。 涼宮さんが……目を覚ました? 事故から約三年……今になって? 『本当は部外者であるあなたにこの事をわざわざ病院側から連絡入れる必要は無いのだけれど……』 「はい……」 自分でもそう思う。 それ位理解できるお頭は持っているつもりだ。 では、如何して俺のところに連絡が入ったのか? 『涼宮さんのお母様がね。あなたにも伝えて欲しいって言っていてね。』 涼宮さんのお母さんが?……何故? 『あなたがよく彼女のお見舞いに来ていたでしょ。そのことを知っていたみたいで……』 前に涼宮さんの見舞いに行ったときに病院のロビーで会ったことを思い出す。 『連絡を取りたがっていたのだけどあなたの連絡先知らないっていっていてね。 住所を知っている私が代役を買って出た訳。』 「そうですか」 まあ、先生とは友恵のときに嫌って程に連絡を交わしていたし…… そういえばあの頃は携帯なんて持ってなかったと妙に懐かしく感じる。 今は持っていて当たり前って感じだからな。 『それで、あなたにはこちらから連絡があるまで病院には来ないで欲しいの』 「えっ!?どうしてですか?」 『正確に言うと涼宮遙さんの見舞いに来るのは当分控えてほしいってこと』 「………」 『納得いかない?』 「いえ……そういう訳じゃ」 本当ならすぐにでも病院に行きたいとこだが…… そんな子供染みた押し付けはしないし、そんな事をしたって電話の向こうの先生を困らせるだけだ。 きっと涼宮さんも起きたばかりだから色々検査とかがあるのかもしれない。 『……彼女は今、三年前に生きているの』 「は?いきなりどうしたんですか?」 『そういう事だから……連絡するまではお見舞いは遠慮してね。じゃあ』 ブツッ…… 「あ、チョット……って切れたか」 受話器は既に電子音を繰り返して回線が切れていることを主張していた。 本当、先生はいつも突然で簡素な説明しかしないんだから……そう言えば夕呼先生もそうだな。 血か? 「でも……」 先生の最後に言っていたことを考える。 「三年前を生きているって……」 涼宮さんの事しかないだろう。 それじゃあ彼女は目覚めたこの世界が三年経ったと気付いていないってことか? 今でも鳴海が自分の恋人だと信じて疑わない。 自分の親友が好きな人と恋人同士だなんて夢にも思わない。 三年という時間を知らない純粋な思い。 「はあ……そりゃ……ツライな、きっと」 受話器を下ろし、廊下に座り込む。 少しヒンヤリとしていて気持ちが良かったが、すぐに体温でジメッとした暖かさがしてくる。 今の俺たちと今の世界、そして三年前の涼宮さん。 彼女から見た今の俺たちはどう映っているのだろうか?
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