『頑張りすぎのあなたの為に(前編)』


俺の人生の中で長期休暇中にこれだけ頻繁に校舎に足を運んだ事があっただろうか……いやナイッッ!!
しかも現在自分が所属しているわけでもない卒業した学校に。
もしかして俺ってそんなに学校が好きだった??
なんて世迷いまで考えさせられてしまう。


「ほら、パラレルな世界に行くのは作業を終えてからにして頂戴!!」
「はっ……、スイマセンッッ」


夕呼先生の少しイラついた声で我に返る。
どうやら意識が脳内空想にGOしていたようだ。
先生の小言が続かないように慌ててデスクの前に広げられた資料に目を戻す。
が、それでも意識はシッカリと目の前にピントを合わせようとしない。
まあ、当たり前だな。
だって三日も寝てねーんだもん。


例に例の如く、俺は突然夕呼先生の電話で呼び出されたわけだ。
そこはまあ、耐性が出来たって言い方も自分自身あんまり嬉しい表現じゃないけど、あんまり気にしたりはしなくなったのだけれど……

準備室に来てすぐ大量の資料を手渡され、先生の現在進めている研究の手伝いをさせられる羽目になったのだ。
普段から先生の研究には興味があったし、ある程度目も通した事も会ったので最初はそれほど辛く感じなかった。
しかし……しかぁぁし、手伝いが始まって四時間、六時間、九時間経過……
日も暮れ校舎内に俺と先生だけしかいないことが確認せずとも分かる時間になっても先生は俺を開放してくれなかった。


「あの……先生??もうそろそろ区切りつけて帰りませんか」


俺がそう提案するのも当たり前。
しかし、ペースが乗っているらしい香月夕呼教諭の答えはあまりにも突然で無慈悲だった。


「却下」


感嘆符無しに淡々と言われるのは正直ツライッス。
いくら若いといっても準備室にカンヅメ状態だと参る。
夕呼先生も同じ条件の筈なのだがそういう様子を全然見せない。
いや……さっきの苛立った声の上げ方を聞く限り、先生も随分辛いのかもしれないな。




この教育実習を経て知った香月夕呼という人物。

教育実習期間の俺の担当で、白陵大のOG……つまり先輩に当たるわけだ。

俺は先生のことをこの実習ではじめて知ったのだが、先生は大学内でも結構な有名人だった。

まあ、言ってしまえば夕呼先生は天才だ。

もうあからさまに本人が威張り腐っているわけだが、真実天才なだけに反論や異論する気も起きなかったりする。

事実、俺もこの数ヶ月間、先生の小間使い兼助手(本当は教育実習生です)として過ごしてきてその天才振りをこの肌で否応なく感じさせられた。

威張り腐っているようで、生徒にもなかなか人気があったり(本人はあまり気にしていないようだが……)、
生徒の問題にも年長者として結構真面目に取り組んでいる(本人は楽しんでいるだけと言っているが)。

そんな教師らしい姿もたくさん見てきた。

はっきり言う、俺は先生の事を尊敬している。

それだけ才能に溢れた人物なのに、何で付属校の講師程度で燻ぶっているのかと疑問に持ったことも少なくなかった。

教師という職業に特別な憧れが先生の中にあるのかもしれないが、研究者として高みに望む姿勢も多々感じられる。

にもかかわらず進展を見せない先生の研究成果。

これだけの才能だ。

大学時代ももっと先進的に研究を進められなかったのだろうか?

俺が知らなさ過ぎただけなのか、大学で調べても先生の研究成果はあまり探し出すことも出来ず、
(一般大衆に読ませるかのような普通を装った卒業論文は見つかったが)
先生に対する数多の疑問もある人物により白陵柊が夏休みに入ろうとする数日前に解消された。

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